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デザイン特許侵害の基準


チャールズ・ブルツガ、デボリーナ・カウシク著

© 2009 ブルツガ&アソシエーツ

2008年9月22日、アメリカの控訴裁判所は、デザイン特許侵害の基準について従前の見解と異なる判断を下しました。Egyptian Goddess, Inc. V. Swiwa, Inc., 事件の判決は、13人の裁判官全員によって下されました。ですので、最高裁判所によって判断が覆されない限り、本事件により判示された基準は米国の法律として拘束力を有することになります。

ここでは、デザイン特許侵害における基準について3つのキーポイントを解説します。

1)通常の観察力をもった看者による判断を基準にするべきであり、専門家による比較テストによるのは適切ではない。
2)機能のみに寄与するデザインの構成要素は侵害判断においては無視すべきである。
3)侵害判断において先行技術をどのように考慮すべきか。

1)については、1871年に下されたGorham Co. v. White事件における最高裁判所の判断が基準となっています。2)については、判例法により確立されています。2008年9月に下された上記Egyptian Goddess事件についての判決は、3)について判示しています。

1. 侵害判断においては通常の需要者による観察を基準にすべきである。

1871年、米国最高裁判所は、Gorham事件において、図の真ん中のデザイン(1867年にWhiteがデザイン特許を取得、以下、WhiteデザインAという)および右のデザイン(1868年にWhiteがデザイン特許を取得、以下、WhiteデザインBという)が左のGorhamのデザイン特許を侵害しているかどうかについて判断を下しました。

White側の証人は、GorhamとWhiteのデザインには多くの相違点があることを証言しました。
実に、White側は、GorhamデザインとWhiteデザインAの間には15の相違点があること、GorhamデザインとWhiteデザインBの間には16の相違点があることを指摘しました。

しかしながら、最高裁判所は、そのような高度に訓練を受けた専門家による比較テストを否定し、WhiteデザインはGorhamデザイン特許を侵害していると判断しました。

最高裁判所は次のように判示しています。「2つのデザインが実質的に同一かどうか判断するには、それらのデザインが示す線、図形や様式の相違点を考慮するのではなく、それらが合わさって生まれる効果を考慮すべきである。」同様に、「デザインを同定とは何かを考えると、それは、外観の同一性であって、線の形や数の違い、形状のわずかな違いによりそれは失われるものではない。デザインが同じであれば、線が多い版画は、線が少ない版画と、同じ図、同じアイデア、同じコンセプトをもたらすものである。」

最高裁判所は、次に、「外観は専門家の目からみて同一でなければいけないか」という命題について、下級審の判断を退けています。すなわち、下級審では、当業者によるデザインの比較テストの結果、実質的に同一でなければ、デザイン特許の侵害とはいえないと判断されていました。しかしながら、最高裁判所は、この下級審での判断を退け、通常の観察能力を有する購買者が、通常の観察能力を発揮した結果、2つの商品を見間違うほどデザインが似ているのであれば、デザイン特許は侵害されていると判断しました。

2. 機能に寄与するデザインの構成要素は無視すべきである。

機能のみに寄与するデザインの構成は、侵害判断においては無視すべきであり、あくまで、装飾的な要素のみ判断の基礎にすべきである。控訴裁判所は、繰り返し、このことについて述べています。

たとえば、OddzOn Products Inc. v. Just Toys, Inc, 事件において、控訴裁判所は、デザインが機能的な要素と装飾的な要素の両方を含むときに、デザイン特許の侵害判断の基準を述べています。

OddzOn Products, Inc.は”Vortex”ボールについて米国デザイン特許(D346,001)を保有しています。このボールは表面が滑らかでフットボールの形状をしており、細長い尾と3つのフィンを有しています。この会社は、Just Toysの”Ultra Pass”ボールが同社のデザイン特許を侵害しているとして、提訴しました。”Ultra Pass”ボールは表面がでこぼこしたフットボールの形状をしており、形状の異なる尾とフィンを有しています。

  

OddOn ”Vortex”tossing ball             Just Toys ”Ultra Pass” ball

控訴裁判所は、この事件では、デザイン特許の侵害はないと判断しました。控訴裁判所は、デザインが機能的な要素と装飾的な要素の両方を含むときの侵害判断の基準として次のガイドラインを示しました。まず最初のステップとして、デザイン特許のクレームを解釈する。次のステップとして、デザイン特許のクレームと侵害品のデザインとを比較する。2つのデザインを比較する際、「特許されたデザインが全体として侵害品のデザインと外観が実質的に似ているかどうか判断する。特許侵害が成立するには、特許されたデザインと侵害品のデザインが同一である必要はない。」と判示しました。

デザイン特許が機能的な要素と装飾的な要素の両方を含むとき、1)特許権者はデザインの装飾的な要素に基づいて類似していることを示さなければならない、2)特許権者は、一般人から見て、特許されたデザインと侵害品のデザインが装飾的な要素において混同することを立証しなければならない。

デザインが機能的な要素を含む場合に、裁判所は、次の3ステップを踏むことにより、機能性のみに寄与するデザインの要素については比較の対象から外すことを明示しています。

・  機能性のみに寄与するデザインの要素を特定する

最初に、裁判所は、機能性のみに寄与するデザインの要素を特定します。OddzOn事件の場合、尾とフィンを有するフットボールの形状は「安定性を増す」という機能性のみに寄与する要素と特定しました。

・  類似性を判断するにあたり機能性のみに寄与するデザインの要素は無視する

特許されたデザインと侵害品のデザインの類似性を判断するにあたり、機能性のみに寄与するデザインの要素は無視されます。OddzOn事件の場合、尾とフィンを有するフットボール形状は機能性のみに寄与するデザインの要素ですので、これらの要素は類似性を判断するに当たっては無視されました。

・  装飾的なデザインの要素を比較する

機能性のみに寄与するデザインの要素は無視した後に、裁判所は、類似性を判断するにあたり装飾的な要素を比較します。OddzOn事件の場合、特許されたデザインと侵害品のデザインにおいて、フットボール形状であることは無視されました。特許されたデザインにおいては、ボールの表面が滑らかであるのに対して、侵害品のデザインは表面がでこぼこです。フィンに関しては、特許されたデザインにおいてはボール後部に向けて緩やかに外向きにカーブを描いているのに対して、侵害品のデザインにおいては波形です。フィンの一般的な形状(機能性に寄与する要素)を無視すると、残された装飾的な要素は特許されたデザインと侵害品のデザインとでは類似していないといえます。

3.類似性を判断するに当たり、公知のデザインはどのように判断に取り込まれるのか

Egyptian Goddess, Inc. V. Swiwa, Inc., 事件の判決は、13人の裁判全員によって下されました。ですので、最高裁判所によって判断が覆されない限り、本事件により判示された基準は米国の法律として拘束力を有することになります。

この事件で、控訴裁判所は類似性を判断するに当たり、公知のデザインをどのように判断に取り込むかについて判示しています。

・  公知のデザインに照らして特許されたデザインと侵害品のデザインを比較した際に、特許されたデザインの要素のうち公知のデザインとは異なるものについて一般的な看者は注目をする。なので、侵害品が、特許されたデザインの要素のうち公知のデザインとは異なる要素をコピーしている場合には、一般人の混乱を招きやすく、したがって、侵害と判断される。

・  類似性を判断するにあたり個々の要素を比較することは有用ではあるが、あくまでも、問題とすべきは全体として2つのデザインが類似しているかどうかである。

・  特許されたデザインが公知のデザインと近似している場合には、一般の看者にとって侵害品と特許されたデザインのわずかな差異も重要になる。

結論

デザイン特許侵害においては3つの基準が問題となります。まず、1つ目は、類似かどうかは、通常の観察力を持った一般人を基準としては判断すべきであり、専門家による綿密な比較テストによるのは適切ではないということです。一般人は特許されたデザインを見た数週間後に侵害品のデザインを見ることもあるのであって、専門家であれば見逃さないような違いがあるからといってこれを非侵害と判断するのは誤りです。むしろ、通常の観察力をもつ一般人がだまされる程度に2つのデザインが類似している場合には、侵害と判断されるべきです。第2に、機能性のみに寄与するデザインの構成要素は侵害判断においては無視されます。まず、機能性のみに寄与するデザインの構成要素を特定し、それを排除し、その上で残りの装飾的なデザインの要素のみを比較すべきです。第3に、侵害判断において公知のデザインはどのように考慮されるべきかですが、裁判所は、侵害品のデザインが、特許されたデザインの構成要素のうち公知ではない要素をコピーしている場合には、侵害と判断される可能性が高いことを判示しています。このように、デザイン特許の侵害には微妙な判断が多く含まれます。