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不可抗力により放棄した出願の回復について


チャールズ・ブルツガ

 オフィスアクションに応答しなかったことで放棄された特許出願について、不可抗力を主張することでこれを回復することに成功しました。発明品のアメリカでの販売の拡充が見込めず、特許による保護が無意味になったことは、不可抗力であり、それゆえ、出願人がオフィスアクションに応答しなかったことは、「意図的な放棄」ではありません。当該不可抗力の基礎となる事情が明らかに終了した場合には、出願人は当該特許出願を回復させることができます。

詳細は、アメリカ特許商標庁のウェブサイトwww.uspto.govで、S.Piperidisの特許出願番号10/537,183(特許登録番号 7,866,842)を検索していただくと、包袋がご覧いただけます。本願と同じような不可抗力下で放棄された特許出願を米国特許法施行規則1.137(b)条に基づいて回復申請をされる場合、もしくは、放棄された商標出願を同規則2.66条に基づいて回復申請をされる場合に、本件は参考になると思います。

 本願(S.Piperidis特許出願10/537,183)の事情

本願が放棄されるに至った事情は次のとおりです。本願は、2006年のオフィスアクションに対して6ヶ月以内に応答しなかったことから、米国特許法133条に基づいて放棄されるに至りました。出願人が応答しなかったのには次の事情があります。保険業者研究所は当該発明の安全保障を拒みました。出願人は、宣誓書のなかで「上述のように、オフィスアクションに応答しなかったのは、保険業者研究所が2006年に本願発明に係る反射器の安全性の保障を拒絶したことにより、仮に特許が取得できても意味がないものになったからである」と主張しました。この主張をサポートするため、出願人は、保険業者研究所の安全保障なくては、本願発明品のマーケット展開はできなくなり、特許による排他的な効力を取得しても無意味になると主張しました。仮に、保険業者研究所の保障があれば、出願人は2006年のオフィスアクションに応答する意思がありました。本願を維持したいという出願人の意思は次の事実に現れています。

1.出願人は、2006年のオフィスアクションの引例に照らしても、本願発明は特許性があり、これに応答する価値があると考えていました。

2.出願人は、本願発明に対するマーケットの要望は、オフィスアクションが発せられた2006年から、応答期間を過ぎてさらに、本願回復の申請をした2009年に至るまで、引き続き強いものであったことを認識していました。

3.出願人は、上記期間中ずっと、保険業者研究所の保障があれば、本願を特許に導くための費用を支払う能力と意思がありました。

2009年に特許回復の申請をしたのは、偶然にも米国外における本願発明品の販売により、安全性を証明する充分なデータがとれ、保険業者研究所により保障が得られたからです。

特許庁は当初、特許回復申請を拒絶しました

 特許庁は、当初、「出願人が、故意にとった行為により応答が遅れた場合には米国特許法施行規則1.137(b)における『意図しない』遅延には当たらない」として、特許回復申請を拒絶しました。この決定は2009年7月17日に出されました。特許庁は、過去の決定(Application of G, 11 USPQ2d 1378, 1380 Comm’r Pat. 1989)を引用し、「出願人が故意に出願を放棄した場合(例えば、クレームに特許性がないと判断した場合、オフィスアクションの拒絶理由を解消できないと判断した場合、出願にかかる発明は商業的価値を欠くと判断した場合などの理由で)、出願人による放棄は故意によるもので、米国特許法施行規則1.137(b)にいう「意図しない」遅延には該当しないとしました。また、特許庁は、過去の決定(Maldague, 10 USPQ2d 1477, 1478 Comm’r Pat. 1988)を引用し、「故意による行為は、再考された結果、出願人が考えを変更したとしても、意図的ではないとはいえない」としました。

 出願人の主張

 特許出願の回復に成功した出願人の主張の要旨は次の表のとおりです。表(1)はオフィスアクションに応答しないという出願人の決定は、クレームの特許性に関して誤った判断をしたことに基づくものであるということに関するものであり、特許庁の上記決定のなかで引用された過去の決定に基づくものです。特許性を欠くという判断に基づきオフィスアクションに応答しないという決定をしたことは、出願を放棄するという意思があったことを推測させる合理的な根拠となると主張しました。

 

上記の(3)の場合、出願人は銃を突きつけられて、オフィスアクションに応答する期限の最終日に応答しないという判断をしたという状況です。このような場合、出願人は、オフィスアクションに応答することで命の危険があるため、(故意に)オフィスアクションに応答しないと決定したのです。出願人の行為は意図的ですが、このような場合に、出願人の行為のみから、出願人は出願を放棄する意思を有していたと推測するのは合理的ではありません。

出願人は、特許庁の当初の決定を覆すため、決定の中であげられた事項について、それぞれ下記のとおり反論をしています。

1.特許庁「本願発明は商業的価値を欠くと判断した。」

出願人「出願人は、2006年のオフィスアクションから応答期間を過ぎて、さらに2009年の出願の回復申請にいたるまで、本願発明に対するマーケットの要望は強いことを充分認識していた。それゆえ、本願発明は、充分な商業的価値がある。事実、出願人は、保険業者研究所が安全性の保障をすれば、2006年のオフィスアクションに応答する意思も能力もあった。」

2.特許庁「出願人は、オフィスアクションで引用された引例を覆すことが出来ないと判断した。」

出願人「事実、出願人は、2006年のオフィスアクションで引用された引例をくつがえすことができると考えていた。」

3.特許庁「出願人は、本願のクレームの範囲が、特許を取得するのに必要な費用をかけるのに値するほど広くないと判断した。」

出願人「事実、出願人は、本願のクレームの範囲は、特許を取得するのに必要な費用をかけるに値するほど充分に広いと考えていた。」

4.特許庁「出願人は、本願は、特許を取得するのに必要な費用をかけるに値しないと判断した。

出願人「事実、出願人は、本願は、特許を取得するのに必要な費用をかけても取得に値すると判断した。」

5.特許庁「出願人は、本願は特許を取得する価値がないと考えていた。」

出願人「出願人は、本願は特許をとる価値があると考えていた。」

6、特許庁「出願人は、本願について特許をとることに興味はあったが、単に、特許をとるための費用の支払を遅らせたかった」

出願人「事実、出願人は、保険業者研究所の保障があれば、費用を支払う意思も能力もあった。」

7.特許庁「出願の放棄に引き続いて起こった状況の変化は、『意図しない』遅延にはあたらない。」

出願人「出願人は、米国外での発明品の販売により安全性を証明する充分なデータがとれ、2009年に保険業者研究所により安全保障が得られるという『偶然の』出来事により出願回復申請をした。しかし、特許庁のいう『状況の変化』は出願の放棄が意図的になされた後に起こった場合にあてはまるものである。なぜなら、本願において、出願は『意図せずに』放棄されたのであり、特許庁のいう『状況の変化』の問題を論じるまでもないからである。」

 結論

米国のマーケットから発明品が締め出されたことで、当該発明にかかる特許の取得が無意味になるという不可抗力により特許出願を放棄した場合には、回復が可能な場合があります。